配偶者の不貞の相手方への損害賠償を考えている方へ

  1. 自分の配偶者が自分以外の異性と情交を結ぶ。
  2. このことは,夫としてあるいは妻として許しがたい行為であると考えるのは一夫一婦制をとる日本の社会ではごもっともだと思います。
  3. 昔の刑法では,夫を持つ女性が他の男性と情交を結ぶ行為を姦通罪という犯罪として処罰するということが行われていましたが,現在ではこの条文は廃止されています。
  4. しかしながら,不貞行為は民法上離婚の原因になると明記されています(民法七百十条)。
    では,慰謝料請求についてはどうでしょうか。
  5. 慰謝料請求について

  6. 不貞行為をした夫(妻)に対して慰謝料を請求できると明記した条文は存在しません。
    しかしながら,条文の解釈として損害賠償ができると考えられています。
  7. (不法行為による損害賠償)
  8. 第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
  9. (財産以外の損害の賠償)
    第七百十条  他人の身体,自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず,前条の規定により損害賠償の責任を負う者は,財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない。
  10. ただ,この条文をみてもどういう関係をもったら損害賠償を請求できることになるのか,或いは,損害賠償の額はいくらなのかさっぱりわかりません。
  11. 損害賠償できるといっても,具体的にどうすれば実際賠償額を手にすることができるのか。
    必要な手続きや資料は何を用意すればいいのかさっぱりわかりません。
    そこで,専門家でも,その専門家のもっている価値観や解釈の仕方によって結論が違ってきます
  12. そもそも,配偶者のある異性と情交をもったとしても,この条文で損害賠償の対象となるような「権利」「利益」「侵害」したとはいえないという解釈の仕方をとる方すらいます。
  13. さすがに実務の現場ではそのような極端な見解で処理されることはまずないですが,裁判官や弁護士の中には損害賠償が認められる場合や賠償額を絞るということでその価値観があらわれる場合もあります。
  14. また,秩序や規律を重んじるような実務家であれば積極的に認めていく方もいます。
    そして,額が不満でも交渉でまとめたほうが良いのか。訴訟提起をしたほうが良いのか。
  15. 不貞の相手の職業や資力がかかわってきます。また,訴訟になるとある程度長期戦になることが予想されます。
  16. 請求されるご本人に訴訟を続けるだけの資力や気力があるか。モチベーションを保てるかという問題も出てきます。
  17. また,裁判で信用性のある証拠として使える資料があるか。あるいは,これからそのような資料を準備することができるかという点も重要な問題です。
  18. このような事情があることから,法的措置をとるのがよいのか。
    予想される展開,予想される負担,予想される結果などを見通して判断する必要があります。
  19. その意味で,同種の事例を多く処理したことのある弁護士や処理事例豊富な法律事務所に所属している弁護士に相談して決める必要があります。
  20. 弁護士が,これから請求をしたいという相談を受けた場合,その方のお話を聞いて事情を把握し見通しを建てるという作業を行います。
  21. HP上の解説は具体的に相談を受けている場合ではないので,ここでは一般論として不貞行為の相手方に対する慰謝料請求で問題になりそうなことを説明したいと思います。

 

どこまで深い関係になれば慰謝料請求が認められる違法行為になるのか。
男女が関係を保つ場合,その深さの程度は様々です。大きく分けて次のように分類できると思います。

 

性交または性交類似の行為

同棲、その他異性との交流・接触行為

1 性交または性交類似の行為

いわゆる肉体関係です。性交とまで言えなくても,世間一般でいわゆる「わいせつ」といわれるような行為は性交類似の行為として慰謝料請求の対象となる違法行為といえるでしょう。

2 同棲

これついては,通常男女が同棲していれば肉体関係をもつのが普通ですので,同棲をしている=肉体関係をもっているに違いないという主張をたてて違法行為に該当するという主張をたてます。
ただ,現代社会は複雑化しています。ライフスタイルも多様化しています。男女が同じ屋根の下で暮らしていても,性交やそれに類似する行為が行われないということもありうるかもしれません。
例えば,病気や体の不具合で性交が不可能であるという主張がなされ,肉体関係がなかったとしてもおかしくないという心証を裁判官が持った場合,同棲しているだけで違法行為として慰謝料が認められることになるのかどうかは微妙です。
裁判官の価値判断に左右されると思いますし,今の実務において同棲しているだけで肉体関係がなくても慰謝料請求が認められることになるのかは疑問といえるでしょう。

3 その他異性との交流・接触行為

この行為の具体例としては,例えば,2人で食事をしたりどこかに遊びに行ったりするようなことがあげられます。
基本的にこの程度の関係では「慰謝料請求を認めるだけの違法行為」とはいえないと考えてよいでしょう。

 

ただ,専門家の中には,この程度の関係でも場合によっては違法行為と評価できる場合があるという指摘もあります。

 

例えば,以前肉体関係があった者同士や交際が異常なほど頻繁な場合。

2度と交際をしないと約束していた場合には違法行為に当たることがあるという指摘する専門家もいるようです。 確かに,関係が深くなれば「配偶者がいるのに悪質である」という見方ができるかもしれません。

 

ただ,今の実務では,食事や遊びだけだと,やはり「これほど深い交流・接触があるのであれば肉体関係があってもおかしくない」といえるとことまで親密にならないと違法行為は認められにくいのではないかと思います。

 

平穏な夫婦生活を営む利益を広く侵害する場合が違法行為だととらえれば,これだけでは肉体関係があるとまでは言えない場合でも慰謝料は認められるのではないかという考え方もできます。

 

しかし,現段階の実務では,やはり慰謝料請求が認められるといえるにはこれだけでは足りないと思います。

 

肉体関係=不貞行為があるという点と結びつくところまで主張しそれを裏付ける事情や資料がないと,法的措置による解決,つまり交渉や訴訟提起まで持っていく決断はできないと思います。

 

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